【成功事例】製造業の中小企業における「親族内承継」・3選

中小企業の事業承継の方法で、もっともポピュラーな方法の1つである「親族内承継」。

親族内承継の事例は世の中に多くありますが、それを検討する経営者にとっては多くが初めての経験です。

他社ではどのような経緯で親族内事業承継が検討され、決定し、進んだかを知っておくと、ご自身が事業承継を検討する際、アイデアや安心の源になるのではないでしょうか。

この記事では、製造業における親族内承継の成功事例を3例紹介しますので、参考にしてください。

事例1:元々継ぐ予定のなかった子供への親族内承継の例

1件目は、アルミの建材加工を主に行う、従業員14名・静岡にある製造加工業企業の事例です。  

3代目の現社長は、2代目の父親からの事業承継の際、親子間での事業承継の厳しさを経験していたため、数年前まで現承継者である息子への事業承継は考えておらず、いつでも廃業できる準備をとさえ考えていたと言います。

2017年には他社とのM&Aの話も出たものの、第三者承継の決断ができず、廃業を視野に設備投資も控えていました。

しかし2018年、機械故障により新設備導入をせざるをえない状況となり、導入したところ、従業員の意欲向上や経営環境の安定につながり、再度、廃業以外の道も考え始めました。

ちょうどその頃、東京で大学院を出てプラント建設企業まで働いていた息子さんが、家族の大切さを深く考えるようになったこと等から家業を継ぐ決意をします。

父61歳、息子26歳の時のことだそうです。

現経営者は、地元の商工会の会長を勤めていたため、商工会所属の事業者へのサービスとして、改めて事業承継について知るようになり、事業承継が地域経済や経営環境を考えた時に重要であることを痛感。

自身の企業が地域で良い事例になれば、商工会議所属の事業者の動機付けにもつながり、地域経済の発展にも寄与できるのではと考えているそうです。

静岡県には「プッシュ型事業承継支援高度化事業」として、親族内承継・従業員承継の相談に、士業などの「ブロックコーディネーター」と呼ばれる相談員がのっており、この事業者もこの制度を利用しています。

現承継者の息子さんは、会社員を辞める前にブロックコーディネーターから第三者的に様々な視点から家業の事業承継を勧められたことが、承継の決心に繋がったそうです。

こちらの現経営者が商工会会長だったことで、地域にこのようなサポート体制があることを早めに知ることができたことが、本事例の成功に寄与していると考えられます。

事業承継を考え始めたら、早めに専門家の第三者の意見をきいてみて、必要なサポートを受けることは非常に重要です。

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またこの企業は、親族内承継をするにあたり、長期的な事業計画を作成し、積極的な設備投資を行う方針とし、ものづくり補助金の申請支援も商工会経由で受けています。

廃業を考えていた時には考えていなかった設備投資が、事業承継により長期的に会社を成長させる決意により必要になったのですね。 このような時、返済の必要がなく最大1000万円の補助が受けられるものづくり補助金は強い味方になりますね。  

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2019年5月に承継者が入社、得意先や機器メーカーで見習いとして修行し、2020年1月からは専務として経営に加わったとのこと。

現経営者が61歳と比較的若い段階で事業承継を決意したことで、承継後も現経営者が承継者を力強くサポートすることができそうです。

参照:公益財団法人静岡県産業振興財団

事例2:社長公募も試みたのち親族内承継を決めた企業の例

2件目は、新潟県で従業員600人・資本金1億円と比較的大規模な印章・ゴム印等の製造・販売業者の事例を取り上げます。

創業者の社長は2017年時点で74歳ですが、24歳で起業し、一台で同業種で売上一位の地位を築きました。

55歳の時に事業省系を意識し始め、5年後の60歳での社長交代を目指して3人の娘に相談した者の、いずれも家業を継ぐ気がなく親族内承継は一旦諦めたそうです。

幹部社員にも家業を継ぐ気は無かったため、創業者56歳の時、当時としてはまだ珍しく、インターネットでの社長の公募を試みました。
かなり先進的な取り組みですね。

結果、大企業の管理職経験者や銀行の支店長経験者など、20名ほどの応募があり、50歳代の大企業の部長職経験者を社長就任前提の取締役として迎え入れたそうです。

しかし、新規事業を軌道に乗せることの難しさなど、諸事情からその取締役は社長に就任することはなく、4年程度で会社を離れることになったそうです。

創業者の当時を振り返ったコメントに次のようなものがありました。
中小企業の社長は、金融機関への個人保証や個人資産の担保提供 も必要で、社外の第三者に経営を引き継ぐためには 越えなければならないハードルがいくつもあった。このような環境下で親族外の人が社長を継ぐには相当な覚悟が 必要だっただろう。」

能力の高い外部の方が自身で決めて入社し、4年も取締役として尽力したわけですから、元々覚悟を持っていたとは思いますが、それを超える、想定外の苦労や難しさがあったということかも知れません。

その後、長引く承継問題を見ていた次女が2010年に手をあげます。

会社や業界のことは全くわからない中、従業員の生活の基盤となっている会社を、後継者不在を理由に廃業させることは忍びないと考えたそうです。

2012年にはこの娘さんに社長を渡し、創業者は会長となります。

会長として創業者がサポートしてくれるとはいえ、社長が会社全体を動かせるようにならなくてはなりません。

その道のりは長く、次のように現社長がコメントされています。

「会長の経営は、創業者ということもありいい意味で「ワンマン経営」だった。
私には社長業経験も業界経験もなく、会長と同じやり方では組織を動かせない。
だから私は、社長の指示命令に従う組織から、従業員が自ら考えて行動する組織への変化を模索している。」

現社長は、工場や店舗の現場の声に耳を傾け、従業員に問題点や解決策を考えさせる意識改革に地道に取り組むことで、上記のコメントのような組織づくりを目指しているそうです。

そして、従業員の中から役員を登用し、将来的な社長が出てきてほしいと考えているのだとか。

自身の役割を「次の代への事業を承継していける組織づくりをしていくこと」とコメントされています。

親族内承継をきっかけに、永続する企業となるべく組織を更新している好例といえそうです。

参照:中小企業白書2017

事例3:親族内承継後M&Aにより企業規模を拡大し競争力を高めている事例

3件目は、1950年から神奈川県で金属の切削加工等を行う企業の2代目から3代目への事業承継の事例です。

この企業は、創業当初から公衆電話の部品製造などで拡大したものの、1990年代後半から、公衆電話離れが事業を直撃。

2000年代には経営が逼迫し、2代目社長は息子に苦労をかける承継を望まず、「従業員に苦労をかけずに閉められるのであれば、私の代で工場を閉めてもいい」とさえ考えていました。

一方、息子の現三代目社長には別の考えがあったといいます。

現三代目社長は大学院卒業後に金型製造にITを導入したベンチャー企業へ入社し、取引先の経営支援にも携わり、そこで培った経験・方法を用いれば父の会社を再建できるのではないかと考えていたのです。

2006年に父親の会社に入社したのは、事業承継を行うためというよりも、経営再建のためで、会社が自走したら自分は離れてもいいと思ったそうです。

現三代目社長が入社してから10年で、企業の売り上げは4倍になり、現在では中小製造業をグループ化する取り組みも行っています。

現三代目社長が入社後にはじめに行ったことは、自社の強みを発見すること。

顧客に自社の価値をきいて回り、「信頼性」と「高品質」であるとみると、その強みが生きる航空産業と医療産業に進出する戦略を立てたと言います。

ウェブサイトの構築、展示会への出展、航空・医療に関わるための認証の取得など、地道な活動を続けていきました。

その努力が実を結び、2008年にはJAXAからの発注を受けるようになり、2012年には医療機器部品の開発に参加しました。

業績回復の要因は、新分野への進出と、自社開発部門をもち提案営業を可能な組織として付加価値を上げたことと、コメントされています。

2017年に三代目の息子は、あるホールディングカンパニーからの事業承継の要請を受けて、創業することになります。

ベンチャー時代の経験や家業の再建を通じて「中小企業を複数まとめて共通機能を集約することで、規模拡大による効率化を行い、中小企業の生き残りをはかる」構想を持っており、8つの中小企業をグループとしたのです。

グループ会社には、従来通りのオペレーションを任せ、各ブランドも守る。

一方で、製品開発などのR&DやPRといった、単独でリソースを割きにくい機能を補っているそうです。

その後グループ会社は13社に増えているとのことで、さらなる成長が期待されるとともに、中小製造業の生き残りや発展への大きなヒントとなる事例ではないでしょうか。

参照:経済産業省

最後に

いかがだったでしょうか。

今回は中小製造業の親族内承継事例を3例ご紹介しましたが、いずれも社外にいた社長の子が、事業の厳しさを知った上で事業承継し、経営再建や、新たな組織の構築に立ち向かっている事例でした。

事業承継についてお悩みのある経営者のかた、承継者候補者・希望者のご参考になれば幸いです。

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