近年増え続けているM&Aの裏側には、M&Aに夢を見て取り組み、そして残念ながら失敗してし表舞台から消えていった数多くの企業が存在します。
とりわけ中小企業の場合は、大企業と比べて伸びしろが多い分だけM&Aに成功すると信じられない急成長を遂げることができる反面、大企業と比べると準備期間や人手や資金不足などが原因で失敗する確率も高いと言われています。
そこで本日は、中小企業のM&Aにおいて、図らずも失敗に終わってしまった事例をご紹介し、これらから「失敗しない方法」について学んでいきましょう。
中小企業のM&Aが増えている背景
中小企業のM&Aが近年増え続けていると言われています。そこでまず、中小企業のM&Aの件数の推移が実際にどうなっているのかを確認してみましょう。
近年のM&Aの件数の推移
出典:「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」中小企業庁作成
中小企業庁が作成した「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、ご覧のように中小企業のM&Aの件数は右肩上がりで増え続けていることが分かります。
次に、事業引継ぎ支援センターが公表している成約実績を見てみましょう。
出典:「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」中小企業庁作成
こちらもご覧のように、急激に右肩上がりで増加し続けています。この件数自体は全体のごく一部であると思われますが、中小企業のM&Aの件数が右肩上がりで増え続けていることは間違いないでしょう。
ということは、残念ながらM&Aの失敗件数も、右肩上がりで増え続けているであろうことが予想されます。
M&Aが増加している理由
それでは何故、中小企業のM&Aが増加しているのでしょうか?その理由について考えてみましょう。
理由① 後継者不在のため
中小企業の経営者の平均引退年齢は約70歳ですから、本来であれば60を過ぎた段階で次の経営者候補の選定を開始し、10年後を目途に引退するのが理想的ですが、少子化や価値観の多様化によって後継者が見つからない企業が多く存在しています。
こういった企業の何割かが事業承継のためのM&Aを行っているため、近年中小企業のM&Aの件数が増加していると考えられます。
理由② 補助金などの整備が進んだため
日本の全企業のうち9割以上を中小企業が占めており、全雇用の7割以上を支えているのも中小企業です。このまま事業承継が進まずに廃業する事業所が増えてしまっては、日本経済に壊滅的なダメージが生じる可能性があります。
そのような理由により、事業承継のための法制度は整備され、M&Aのための費用を補助するための補助金も設立されました。こういった公的機関によるサポートにより、M&Aの件数が増加していると考えられます。
理由③ M&Aの認知度がアップした
かつては、M&Aといえば「敵対的買収」のイメージが強く、社会的に決して良いものとは捉えられていない時代がありました。また、「M&Aは大企業が行うもの」というイメージも強かったため、中小企業が企業経営の選択肢の一つとして考ることもありませんでした。
しかし、時代が変わり、M&Aに対する認知度がアップしたため、多くの経営者が積極的にM&Aを活用するようになりました。
理由④ 急激に変わり続ける社会状況のため
その昔は、「〇〇業界に就職すれば一生食べていける」と言われた時代がありました。繊維や鉄鋼、自動車産業や金融業などがそうです。しかし、デジタル化社会が加速することによって社会の変革スピードも加速し、それにともない、新しいサービスが生まれては消えていく時代となりました。
昨日作ったものが明日には古くなる時代に、「一から事業を立ち上げて成功するまで頑張っていては時間がかかり過ぎて間に合わない」と考える経営者が増えた結果、M&Aによって外部から事業部門ごと買い取るケースが増えるようになりました。
おもにこれらの理由により、近年M&Aの数が増加し続けていると考えられます。
中小企業にとってM&Aの失敗とは?
M&Aは、必ずしも成功するとは限りません。これは、大企業も中小企業も同じです。しかし、M&Aの成功や失敗の定義は、大企業と中小企業では大きくことなります。
大企業にとってのM&Aの「成功」と「失敗」の定義
株式市場に上場しているような大企業の場合は、経営者が個別の株主と面識を持つことはまずありません。上場によって誰でも株式を購入することができるようになるため、ごく一部の株主を除けば、不特定多数の人物(あるいは法人)が自社の株主となります。
したがって、大企業がM&Aを行う目的や成功の定義は、金銭的なもの以外には何もありません。逆に、「社員を守るため」や「経営者の夢を実現させるため」にM&Aを行っていては、株主から訴えられてしまいます。
ですから、大企業にとってM&Aの「成功」と「失敗」の定義とは、「金銭に関わる経済的な成功(もしくは失敗)」のみとなります。
中小企業にとってのM&Aの「成功」と「失敗」の定義
いっぽう、中小企業の場合は大企業とは事情がことなります。中小企業の多くは、株式を経営者およびその一族が保有しているため、株主と経営者との距離は圧倒的に近く、ほぼ全員が経営者と面識を持っています。
したがって、必ずしも大企業のようにM&Aの目的を金銭的成功のみにフォーカスさせる必要はありません。ここに、中小企業のM&Aの最大の特徴があります。
中小企業のM&Aの成功の定義は各経営者が個別に設定するものであり、中小企業のM&Aの失敗とは、その定義が実現できなかったことを指します。
M&Aが失敗する理由
中小企業のM&Aにおいては、何が失敗でどうなれば成功と呼ぶことができるのかは、経営者にしか決めることができません。しかし、失敗のパターンを類型化することはできます。そこでこの章では、何をどうした結果M&Aで失敗したのかを探っていきます。
失敗する理由① 成功の定義が不明確なままスタートしてしまった
上述のように、中小企業のM&Aの場合、「こうなれば成功」と言えるものは特にありません。したがって、経営者自身でゴールを設定しなければなりませんが、この設定を不明確なままでM&Aをスタートしてしまうと、そもそも何を優先しなければならないかを決めることができなくなってしまいます。
これでは、M&Aを成立させることは出来ても、M&Aを成功させることはできません。
失敗する理由② リストの絞り込みミス
M&Aを行う場合、アドバイザーが作成した数十社にものぼる買い手(もしくは売り手)企業のロングリストの中から希望する企業を絞り込み、ショートリストを作成します。
この過程で本来買収(あるいは売却)すべき相手をリストから漏らしてしまうと、この後どれだけ頑張っても、M&Aを成功させることはできなくなってしまいます。
失敗する理由③ デューデリジェンスのミス
M&Aの買い手企業は、売り手企業に対してデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスを行うことにより、簿外債務の見落としや法令違反による訴訟リスクなどを事前に発見することができます。
この作業は、財務に関しては公認会計士が、そして法務に関しては弁護士が行うのが一般的ですが、両者に支払う費用は数百万円から場合によっては1千万円以上になることもあります。
そのため、自社内の担当者が公認会計士や弁護士に代わってデューデリジェンスを行うことがありますが、専門家ではないため、将来のリスクを未然に防ぐことが出来ない場合があります。
また、デューデリジェンスが終わると、その内容にしたがってM&A価額の調整を行います。しかし、デューデリジェンスが甘ければ、本来の価額よりも高値で買収してしまうことになります。
失敗する理由④ M&A後の企業統治ミス
M&Aは、買収してしまえば終わりではありません。PMI(ポスト・マネジメント・インテグレーション)による統合手続きに失敗してしまえば、従業員の大量離職を招き、業績悪化は避けられません。
また、買収後の企業経営を現場任せにし過ぎることにより、思い描いたシナジー効果が得られない場合もあります。
M&Aの失敗事例
それでは最後に、M&Aの失敗事例についていくつかを匿名でご紹介します。
事例①日々の仕事が忙しく、着手が遅れ手遅れとなってしまったケース
- 売り手企業・・・A社
- 業種・・・設備工事業
- 売上高・・・年商5,000万円
- 従業員数・・・5名
- 社長の年齢・・・70歳
A社の社長B氏は70歳でしたが、2億円を超える借金を抱えながら日々の資金繰りに奔走し、事業承継を考える暇もありませんでした。やがて後継者不在のまま資金繰りに生き詰まり、やっと重い腰を上げてM&Aによる事業承継の準備を始めることにしました。
幸い感触も良く、複数社から好感触の回答を得ることが出来ましたが、資金繰りの悪化に伴い業績が悪化の一途をたどり、M&A自体が破談となってしまいました。
その後A社は破産し、借入金の個人補償をしていた社長のB氏も自己破産をすることになりました。
事例②M&A成立前に情報が社外に漏れて不成立となってしまったケース
- 売り手企業・・・C社
- 業種・・・製造業
- 売上高・・・年商3億円
- 従業員数・・・20名
- 社長の年齢・・・70歳
後継者候補が不在であったC社は仲介業者に依頼し、M&Aによる事業承継を決断しました。
業績が好調だったため幸いにして数か月後には理想の買い手が見つかり、トントン拍子で基本契約まで締結するに至りました。
しかし、社長のD氏は基本契約締結によって事実上M&Aが決まったものと思い込み、従業員や取引先などに対して買い手企業を含むM&Aの情報を流してしまいました。それが買い手企業に伝わり、M&Aそのものが破談となってしまいました。
その後、D氏は90歳を迎えるまで事業を継続しましたが、後継者を迎えることができず、最終的には廃業することになりました。
事例③オーナー一族の経営をめぐる対立によってM&Aが途中で破談となってしまったケース
- 売り手企業・・・E社
- 業種・・・製造小売業
- 売上高・・・年商5億円
- 従業員数・・・50名
- 社長の年齢・・・55歳
15年前に他界した父からE社の社長業を引き継いだ長男F氏は、次男のG氏を副社長に迎え、兄弟2人でE社を経営していくことに決めました。しかし数年後から業績が悪化し、倒産の危機を感じた弟のG氏は独断で弁護士に相談し、M&Aの準備を進めていきました。
社歴が長く、業界での知名度も高く販路もしっかりとしていたため、すぐに買い手希望が見つかり、基本契約まであと一歩の所まで来ることができました。しかしその話が社長で長男のF氏の耳に入り、M&Aは破談、次男のG氏は解任されて会社を去ることになりました。
その後、経営陣の内紛を不安に思った従業員の離職が続き、売上の減少により最終的には廃業に至りました。
事例④譲渡側の態度が不誠実なためM&Aが不成立となってしまったケース
- 売り手企業・・・H社
- 業種・・・運送業
- 売上高・・・年商10億円
- 従業員数・・・30名
- 社長の年齢・・・75歳
運送業を営むI氏には、事業を引き継ぐ後継者が見つからなかったことから、M&Aによる事業承継を決断し、仲介業者に相談をしました。H社は地域でも有名な運送会社のため、買い手候補はすぐに見つかり、あっと言う間に基本契約の締結まで終えることができました。
しかし、その後買い手候補企業によるデューデリジェンスが非常に厳しく、取り調べを受けているように感じたI氏は次第に態度を硬化させ、非協力的な態度を取るようになってしまいました。
じきに買い手候補から不誠実であるとみなされ、M&Aそのものが不成立となってしまいました。
その後、他社とのM&Aも成立には至らず、持病を悪化させたI氏は他界。元役員が事業を引き継ぐも業績悪化は食い止めることができず、廃業することになってしまいました。
まとめ
M&Aによって一気に業績を伸ばしている中小企業の裏には、M&Aによって一気に失速してしまった多くの企業がその影を落としています。
やっと掴んだM&Aのチャンスを棒に振ってしまった経営者や、最終的に廃業せざるを得なくなってしまった経営者などさまざまですが、失敗した多くの多くの経営者に言えることは「準備不足」です。
M&Aは、じっくりと時間をかけてチャンスを伺い続けることができれば、かなりの確率で成功を収めることができます。しかし逆に言えば、あまり時間をかけれずに見切り発車で行ってしまうと、M&Aはかなりの確率で失敗してしまいます。
経営者は日々の業務に忙殺されてしまうため、じっくりと考える時間を作るのは難しい特殊な仕事ではありますが、将来的にM&Aを考えているならば、できるだけ丁寧に準備をしなければなりません。
今日ご紹介した失敗例のようにならないように、じっくりと取り組むようにしていただければ、きっと成功の確率を上げることができるようになるでしょう。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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