M&A仲介業者の問題点「利益相反」とは?セカンドオピニオンの重要性についても紹介

「利益相反」という言葉をご存じでしょうか?
広辞苑によると、利益相反とは『当事者の間で利益が相反することになる法律行為』であると書かれています。

たとえば民法では、相続人が未成年の場合は法定代理人を立てなければなりませんが、その場合、同じく相続人となる人物(親や兄弟など)は法定代理人になることが出来ません。

なぜなら、未成年である相続人の相続権と、法定代理人である相続人の相続権が対立してしまうため、未成年である相続人の相続権が侵害される(損をしてしまう)恐れがあるからです。

このような関係を利益相反といい、その行為を利益相反行為といいます。

実はこういった利益相反は、M&Aにおいても依頼者と仲介業者の間でもしばしば起こることがあります。

そこで本日は、M&Aの利益相反と、その解消方法としてのセカンドオピニオンについても解説していきたいと思います。

M&Aにおける仲介業者の役割

仲介業者の利益相反について考える前に、まず、M&Aにおいて仲介業者がどのような役割を果たしているのかを簡単にまとめておきましょう。

M&Aの仲介業者がM&Aにおいて果たす役割は、おもに以下の3点です。

  • 売り手と買い手のマッチング
  • M&Aの行程のスケジュール管理
  • 売り手と買い手の利益の調整

売り手と買い手のマッチング

M&Aの仲介業者は、M&Aを希望する売り手や買い手の膨大なリストを持っています。
仲介業者はこのリストをもとに、売り手のニーズに合った最適の買い手希望企業を探し出すことができます。

M&Aの行程のスケジュール管理

M&Aは「金銭によって会社を売買する商行為」であることは間違いありませんが、単なる物品の売買とはその行程の複雑さがまったくことなります。

 

仲介業者は、売り手と買い手のスケジュール調整はもちろんのこと、要所要所で必要となる法律行為は提携している弁護士に、タックスプランニングは税理士に、財務デューデリジェンスは公認会計士などに依頼していきます。

仲介業者はこれらの一連の手続きのすべてを調整し、スケジュール管理をしています。

売り手と買い手の利益の調整

M&Aを成立させるためには、売り手が自分の要望ばかりを主張していてはいけません。
M&Aは交渉事ですから、やはり引くところはある程度引かなけば、せっかく出会えた理想的な買い手とのM&Aも決裂してしまいます。
これは、買い手にも言えることです。

そのため、仲介業者はどちらかの利益を最大化するのではなく、お互いの条件を擦り合わせた上でそれぞれの利益が平等に成り立つように調整する役割を果たしています。

M&Aにおける利益相反とは

仲介業者の働きを理解した上で、その働きがどうなると利益相反になるのかを考えてみます。

M&Aの目的は、売り手と買い手で同じ場合もありますが、違う場合もあります。
双方の目的の違いが利益相反にどのような影響を与えるのかを見てみましょう。

M&Aの目的の違いによって変わる利益相反

売り手と買い手の目的が、同じ(もしくは比較的近い)場合と、そうでない場合に何が起こるのかを考えてみます。

売り手と買い手の目的が同じ場合

たとえば、売り手側の目的が従業員の雇用維持で、買い手側の目的が従業員の確保だったとしたらどうでしょうか?

この場合、売り手側と買い手側の利益は相反しません。
ですから、多少の認識の違いはあったとしても、基本的には「WIN-WIN」の関係でクロージングを迎えることができます。

また、売り手の目的が「社名や商品名を継続させること」などの場合で、買い手の目的が「(ネームバリューのある)社名や商品名を使うこと」であれば、この場合もお互いの利益が相反することはありません。

このように、売り手と買い手の目的が同じ(もしくはかなり近い)場合であれば、M&Aで利益相反が起こることはあまり考えられません。

売り手と買い手の利益が相反する場合

M&Aにおいて、売り手と買い手の利益が相反する場合とは、売却によって得る(買い手にとっては支出する)金額が多い(買い手にとっては少ない)ことが目的である場合です。

この場合、売り手の「得」は買い手の「損」になり、売り手の「損」は買い手の「得」になってしまいます。

つまり、このようなケースでは、売り手と買い手双方の信任を得て職務を行う仲介業者の行為が、利益相反となる可能性が生じてしまうわけです。

仲介業者が主張する法律的根拠

仲介業者側は、もちろん利益相反行為にあたらないように細心の注意を払って業務を行っています。
その上で、M&Aの仲介業が利益相反にあたらない根拠を以下の条文を用いて説明しています。

仲介業者は売り手や買い手の代理人ではない

民法108条の1項では、法律行為を行う代理人の禁止事項を以下のように定めています。

『同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。』

つまり、利益が相反しあう双方の代理人となって法律行為を行ったら、その行為は民法上無効になってしまうと言っているわけです。

しかし、M&Aアドバイザーの業務は、当事者の代理として契約を締結するような法律行為の代理ではないため、民法108条1項には抵触しないというわけです。

民法改正により状況が変わる

しかし、2020年に改正された民法では、108条に第2項が追加されました。

前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

つまり、代理人(仲介業者)と本人(売り手もしくは買い手)との利益が相反する行為については、その行為は民法上無効になる、と言っているわけです。

売り手や買い手の利益より、仲介業者の利益(早くM&Aを成立させて自社の報酬を確定させたい、など)を優先して行った行為については、民法108条2項に抵触する、と言っているわけですね。

さらに河野行政改革担当大臣が問題視する

河野太郎行革担当大臣は、2020年12月18日の自身のブログで、M&Aの仲介業者の問題点を以下のように指摘しています。

(中略)しかし、こうした中には売り手と買い手の双方から手数料を取ってM&Aを仲介する業者がいます。

この場合、売り手は一回限り、つまり自分の企業を売却すればそれ以上売り物はありませんが、買い手はその後も企業を買い取る可能性があります。

仲介者にとってみれば、一回限りのビジネスにしかならない売り手に寄り添うよりも、今後もビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。

双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています。

この指摘を受けた中小企業庁は、2021年3月までに以下の3点を徹底する措置を確定し、2021年の夏までにその仕組みが動き出すように努めています。

  • 売り手と買い手双方の一者による仲介は利益相反となり得る旨を明記する
  • 両者から手数料をとっているなどの不利益情報の開示を徹底する
  • 他のM&A支援業者などにセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とする

仲介業者の株価が軒並み下落

2021年1月13日の日経新聞によると、河野行革改正担当大臣のブログでの発信により、日経平均株価はバブル経済以降の歴史的な高値へと推移しつつある中、M&Aの仲介業者の株価だけが軒並み10%前後も下落していると伝えています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD136TE0T10C21A1000000/

株価の低迷はその後も続いていることから判断すると、マーケットも仲介業者の業務の利益相反行為に対する是正が行われると考えているようです。

M&A仲介業者の問題点

それではここで、改めてM&A仲介業者の問題点について考えてみます。

問題点① 売り手よりも買い手に寄りがちな構造上の問題

河野大臣が指摘したように、M&Aの売り手の多くは株式譲渡によって会社を完全に手放してしまうため、次にM&Aを行うことはまずありません。

それに対して買い手はM&Aのリピーターになる場合が多く、特に最初のM&Aで成功した場合は二度・三度とM&Aを繰り返す傾向にあります。

こうなると、仲介業者にとって、買い手は大切な常連様です。しかしこれでは、売り手と買い手の利益が衝突する局面で、買い手に肩入れせずに公平性を保つことが難しくなってしまいます。

問題点② 依頼者の希望よりもM&A成立による報酬が上位になる可能性がある

仲介業者の担当者も会社員ですから、会社の業績を上げれば自分の給料も上がります。
したがって、売り手や買い手などの依頼者の希望を叶えるよりも、とりあえずM&Aを成立させて仲介会社の報酬を確定させる方を優先させてしまう傾向があります。

問題点③ 依頼者が不安に思っても他に相談できない契約上の問題

売り手にとっても買い手にとってもM&Aはリスクが高く、失敗すれば経済的な損失をともないます。
特に売り手の場合、M&Aは人生最初で最後の経験ですから不安を感じないわけがありません。

しかし、M&Aの売り手や買い手は、仲介業者と「専任条項」が記載された契約を結ぶため、契約後に仲介業者に不安や不信を感じたとしても、他の仲介業者に相談することは禁じられてしまいます。

M&Aのセカンドオピニオンとは

中小企業のM&Aは、仲介業者の存在なくしては成立させることが極めて難しいと言えます。
しかし、これまで述べたように、仲介業者のM&Aにおける立ち位置が構造上の問題を引き起こしていることも間違いありません。

そこで最近では、売り手や買い手側の企業の多くが、M&Aのセカンドオピニオンを利用しています。

M&Aのセカンドオピニオンとは

セカンドオピニオンとは、一般的には医学の世界で用いられている用語で、よりより決断をするために主治医以外の医師からも意見を聞くことをいいます。

M&Aにおけるセカンドオピニオンとは、医学の世界のそれにならい、仲介業者以外の第三者から現在行われているM&Aに対する率直な意見を聞くことにより、よりよい決断ができるようになるための情報提供サービスのことをいいます。

M&Aのセカンドオピニオンならではのメリット

M&Aのセカンドオピニオンを利用することより得られるメリットは、おもに以下の4つです。

  • 自社の企業価値評価の相場がどれくらいか分かる
  • M&Aのスキームが妥当かどうか分かる
  • M&Aに関する疑問点や不安が解消される
  • 今後どうすべきかの判断ができる

自社の企業価値評価の相場がどれくらいか分かる

M&Aにおける売り手企業の売買価額は、最終的には売り手と買い手の需給関係によって決まります。
「何としても今すぐ欲しい」と思う買い手であれば、多少割高でも買うでしょうし、「お値打ちに買えるのなら買おうかな」程度の買い手であれば、多少割安にした程度では成約することは難しいでしょう。

つまり、M&Aにおける売買価額は、税金の計算のように公平で決まり切った計算方法によって算出されるのではなく、マッチング相手との需給関係によって最終的には決定されます。

しかし、その価額決定プロセスにおいて、似たような企業であればどれくらいの評価額がつけられているのかという相場はあります。

仲介業者から「御社の相場はこれくらいの価額ですよ」と言われたものの、納得がいかない場合は、セカンドオピニオンのサービスを受けることにより、第三者の目から見た場合の自社の相場を知ることができます。

M&Aのスキームが妥当かどうか分かる

中小企業のM&Aで活用される機会が多いスキームは、おもに以下の4つです。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 分社型分割による株式譲渡(タテの会社分割)
  • 分割型分割による株式譲渡(ヨコの会社分割)

この中でも、株式譲渡が圧倒的に多く活用されています。
理由は、株式譲渡によるM&Aを行うと売却代金がオーナー経営者の手もとに直接入金され、また、会社を丸ごと売却してしまうため売却後に会社が残ってしまうわずらわしさから解放されるからです。

しかしそれ以外にも、仲介業者から見ると、手続きに時間がかからず(最短1日でも可能)簡単に出来てしまうため、M&Aの成立をささっと済ませることが出来るというメリットもあります。

ですが、この株式譲渡が本当にそのM&Aで最適なスキームなのかどうかは他のスキームと比較し、精査してみなければ分かりません。

セカンドオピニオンサービスを利用することにより、スキームの精査を行い、どれが最適な方法なのかについての第三者の意見を聞くことが出来ます。

M&Aに関する疑問点や不安が解消される

仲介業者の担当者には聞きにくいことや言いにくいことがあるという話を、多くの経営者の方から聞きます。

M&Aのセカンドオピニオンサービスを利用すれば、相手は当事者ではありませんから、遠慮なく何でも聞きたいことを聞くことができます。

今後どうすべきかの判断ができる

M&Aのセカンドオピニオンサービスを利用することにより、仲介業者以外の第三者からの意見も聞くことができるため、今後どうすればよいのかを総合的に判断することができます。

これで、スッキリとした気分で、再びM&Aに取り掛かることが出来ます。

アドバイザリー契約の「専任条項」との問題

仲介業者と締結したアドバイザリー契約には、必ず「専任条項」が盛り込まれています。
これは、契約期間中は他の仲介業者と契約を結んだり助言を受けたりしないことを売り手側が仲介業者に対して誓約しているものです。

上述のように、中小企業庁の指導により、今後はこういった契約そのものが見直されることになると思われますが、既に契約を交わしている方の場合は、この専任条項が契約書に盛り込まれているはずです。

したがって、他の仲介業者にセカンドオピニオンを求めることは現段階では出来ませんが、競合する仲介業者ではない公認会計士や税理士などの専門家であれば、セカンドオピニオンを求めても問題になることはありません。

ただし、仲介業者とどのような契約を交わしているのかはケースバイケースのため、セカンドオピニオンのサービスを受ける場合は専任条項に抵触するかどうかを事前に確認しておいた方が良いでしょう。

セカンドオピニオンサービスはこちらへ

経営者コネクトでは、M&Aで悩んでいる経営者に対してセカンドオピニオンサービスを提供しています。

「仲介業者とは別の第三者の意見を聞いてみたい」と思われる方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

経営者コネクト
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まとめ

M&Aの売り手と買い手のマッチングを行う仲介業者の役割は、M&Aを行う上で欠かすことが出来ません。

しかし、報酬を受け取る方法の問題や、依頼者と仲介業者の利益が対立する場合があるため、利益相反関係となるケースが考えられます。

こういった理由により、仲介業者に対する不信感や不安が募ってしまった場合は、遠慮なく仲介業者に問い合わせ、積極的にコミュニケーションを取りながら解決していくのが良いでしょう。

それ以外にも、第三者によるセカンドオピニオンを並行して活用すれば客観的な意見を聞くことができるため、より正しい判断をすることができるようになります。