経済産業省は2021年8月31日に、令和4年度(2022年度)予算の概算要求を公表しました。
その総額は、本年度当初予算額から11.9%増加となった1兆4026億円です。
そのなかで「中小企業対策費」には1,396億円をあて、新型コロナの影響が長引き、厳しい状況にある事業者を支援すると述べています。
そこでこの記事では、令和4(2022)年度の経済産業省 概算要求の中小企業対策について、ポイントや事業内容を解説していきます。
「令和4年度(2022年度)の中小企業対策の動向を知りたい」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
令和4(2022)年度の経済産業省 概算要求中小企業対策のポイント
令和4(2022)年度における、経済産業省の概算要求額の内訳は次のとおりです(単位は億円)。
令和4年度概算要求額 | 令和3年度当初予算額 | 対前年増減率 | |
---|---|---|---|
一般会計(エネ特繰入れを除く) | 4,227 | 3,517 | 20.2% |
・うち、中小企業対策費 | 1,396 | 1,117 | 24.9% |
・うち、科学技術振興費 | 1,412 | 1,090 | 29.6% |
・うち、その他 | 1,419 | 1,309 | 8.4% |
エネルギー対策特別会計 | 8,242 | 7,454 | 10.6% |
・うち、エネルギー需給勘定 | 6,534 | 5,724 | 14.2% |
・うち、電源開発促進勘定 | 1,628 | 1,679 | ▲3.0% |
・うち、原子力損害賠償支援勘定 | 81 | 50 | 62.0% |
特許特別会計 | 1,557 | 1,562 | ▲0.3% |
経済産業省関連合計 | 14,026 | 12,533 | 11.9% |
総額は、令和3年度(2021年度)から11.9%増となる1兆4026億円。
そのなかで、「中小企業対策費」は前年度24.9%増の1,396億円で、総額の約1割を占めます。
そして、令和4(2022)年度の経済産業省 概算要求中小企業対策のポイントは、大きく分けると次の4点です。
- 事業継続のための着実な支援
- 事業再構築・承継・再生を目指す事業者の後押し
- 生産性向上による成長促進
- 取引環境の改善をはじめとする事業環境整備等
次項からは経済産業省が公表した資料をもとに、各ポイントの事業内容について解説します。
・経済産業省:令和4年度経済産業政策の重点、概算要求・税制改正要望について
なお、以下で記載する金額はあくまでも「要求額」であり、最終的な決定稿ではないことにご注意ください。
また各補助金制度の記事もご紹介していますが、記載された内容は現時点での制度であり、令和4年度の実施内容とは異なる場合がありますので、ご了承ください。
【ポイント1】事業継続のための着実な支援
ポイントの1点目は、「事業継続のための着実な支援」です。
現在、コロナ禍の中小企業や小規模事業者、個人事業主等に対しては、次のような「事業継続のための支援」が行われています。
- 資金繰り支援
- 月次支援金等の給付(令和2年度予備費等:6,979億円)、
- イベントの再開支援(令和2年度一次補正、三次補正、予備費:1,594億円)など
資料「概算要求等のポイント」では、このなかの「資金繰り支援について、引き続き万全を期していく」と明記されています。
ただし「資金繰り支援」以外は言及されていないため、令和4(2022)年度も月次支援金の給付が行われるかは不明です。
【ポイント2】事業再構築・承継・再生を目指す事業者の後押し
ポイントの2点目は、「事業再構築・承継・再生を目指す事業者の後押し」です。
本年度の新規事業である事業再構築補助金で、新分野展開や業態転換等の果敢な取組への支援を実施中。
引き続き、これらの取組を支援するとともに、併せて事業承継・引継ぎ・再生を推し進めるとしており、以下のような事業が含まれます。
ものづくり等高度連携・事業再構築促進事業:25.4億円(新規)
新規で「ものづくり等高度連携・事業再構築促進事業」が創設され、25.4億円を要求。
ただし資料をみると、その中身は本年度も行われている次の2つの補助金を指しています。
- ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金
- 事業再構築補助金
なお上記1は、一般的に「ものづくり補助金」とよばれる「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」とは別の補助金であり、くわしくはこちらの記事でご紹介しています。
また事業再構築補助金は、現時点では1兆1,485億円の予算(令和2年度三次補正)がついていますが、これは令和3年度(2021年度)で使い切ると考えられます。
それはこちらの記事で紹介するとおり、第1回公募での採択金額が約2,200億円であり、令和3年度(2021年度)はあと4回の公募実施を予定しているためです。
そうすると本事業での要求額の25.4億円では、金額が大きく減少してしまうため、別途予算がつかない限り制度内容や規模が変更・縮小されることも考えられます。
中小企業再生支援・事業承継総合支援事業:159.1 億円(前年度95.0 億円)
「中小企業再生支援・事業承継総合支援事業」としては、159.1 億円を要求。
前年度の95.0億円から64.1億円もの増額で、経済産業省が力を入れている事業であることがわかります。
そして「中小企業再生支援・事業承継総合支援事業」には、次の2事業が含まれます。
(1)中小企業再生支援事業
「中小企業再生支援事業」では、全国47都道府県に1か所ずつ設置されている「中小企業再生支援協議会」が、財務上の課題を持つ中小企業者などに再生計画の策定支援を実施します。
令和4年度(2022年度)では、次の2点を実施することで、今年度に引き続き「コロナ禍の影響を受けた中小企業者の再生を支援する」と明記されました。
- 人員の増強など協議会の体制拡充を維持する
- 地域における再生人材の育成を図る
なお「中小企業再生支援協議会」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
(2)事業承継総合支援事業
2つめの「事業承継総合支援事業」は、47都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」によって、中小企業者などの円滑な事業承継・引継ぎ(M&A)促進のため、支援ニーズの掘り起こしからニーズに応じた支援まで行うものです。
以下の2点を成果目標とし、事業承継・引継ぎの円滑化を目指します。
- 年間16.8万件の事業承継診断
- 年間2000件の事業引継ぎ
なお「事業承継・引継ぎ支援センター」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
事業承継・引継ぎ・再生支援事業:47.1億円(前年度16.2 億円)
「事業承継・引継ぎ・再生支援事業」としては、47.1億円を要求します。
前年度は16.2 億円ですので30.9億円の増加に。
前項の「中小企業再生支援・事業承継総合支援事業」も大幅増額していることから、経済産業省が「事業承継」関連事業に力を入れていることがわかります。
そして「事業承継・引継ぎ・再生支援事業」としては「事業承継・引継ぎ補助金」を実施します。
「事業承継・引継ぎ補助金」とは、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等や、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業等を支援する補助金制度です。
令和4年度(2022年度)事業では、従来の「事業承継・引継ぎ」のほか、「事業再生」についても新たに支援対象にすると説明しています。
また、経営資源を引き継ぐ場合にのみ、廃業費用のみを支援する枠組みなども新設。
なお「事業承継・引継ぎ補助金」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
【ポイント3】生産性向上による成長促進
ポイントの3点目は、「生産性向上による成長促進」です。
現状では、新型コロナの長期化への対応や賃上げ原資を確保などのため、生産性革命補助金を通じ、設備投資・販路開拓・IT導入を促進している分野となります。
令和4年度(2022年度)も引き続き、研究開発促進や海外進出支援、生産性の向上を図っていくとして、以下のような事業が行われます。
成長型中小企業等研究開発支援事業(サポイン事業等):162.6億円(前年度109.0億円)
「成長型中小企業等研究開発支援事業」は、162.6億円を要求。
前年度が109.0億円ですので、+53.6億円と大幅増の要求を行っています。
「成長型中小企業等研究開発支援事業」では、中小企業が大学などと連携して行う、研究開発やAI/IoTなどの先端技術を用いた革新的なサービスモデル開発への取り組みを支援します。
そのために、本事業では「サポイン事業」を発展させた支援を実施。
「サポイン事業」は、本年度では「戦略的基盤技術高度化支援事業」とされており、「ものづくり基盤技術の高度化」につながる研究開発から販路開拓までの取り組みを最大3年間支援する制度です。
令和4年度(2022年度)では、大学・公設試験研究機関などに対し、 研究開発や事業化の進捗状況等に応じて段階的な補助率を適用する等のインセンティブ
設計を付加します。
なお「サポイン事業」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
海外展開のための支援事業者活用促進事業(JAPANブランド育成等支援事業):9.4億円(前年度8.0億円)
「海外展開のための支援事業者活用促進事業」としては、9.4億円を要求しています。
本事業には以下の2事業が含まれるのですが、本年度は「JAPANブランド育成支援等事業」のみで予算が8億円でしたので、実質的に予算額は下がったといえます。
(1)JAPANブランド育成支援等事業
「JAPANブランド育成支援等事業」は、中小企業者などが海外といった新たな市場の獲得に向けて、新商品・サービスの開発による販路開拓・ブランディングなどを行うときに、その経費の一部を補助する制度です。
令和4年度(2022年度)では、海外展開支援に実績のある支援機関・支援事業者を、中小企業庁が設置する事務局が「支援パートナー」として選出することに。
そして中小企業者が申請する際には、いずれかの支援パートナーを活用したうえで事業を実施することが要件となります。
なお「JAPANブランド育成支援等事業」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
(2)現地ニーズ等活用促進事業
「現地ニーズ等活用促進事業」では、海外ビジネスに結びつくニーズや最新のトレンド情報を、JETROを通じて、現地のディストリビューターやマーケティング会社から直接入手します。
そして情報を、中小企業が扱いやすい形に加工・編集して提供。
優れた商品やサービスを持つ国内中小企業の、効果的な海外市場開拓を後押しします。
展示会等のイベント産業高度化推進事業:3.8億円(前年度3.3億円)
「展示会等のイベント産業高度化推進事業」では3.8億円を要求し、前年度から0.5億円の微増となっています。
営業機能の脆弱な中小企業にとって重要な商談、マーケティングの場である展示会などのイベント関連を補助する、次の3つの事業が含まれています。
- ビジネスモデル構築推進事業:展示会などのイベント産業の、新たなビジネスモデルの構築に向けた取り組みに関する費用の一部を補助する
- 展示会国際化促進事業:国内の魅力ある展示会等をパッケージ化して海外に発信することで、海外バイヤー・海外メディアなどの国内展示会への参加を促す
- 高度化人材育成基盤整備事業:国際的な展示会の企画や運営・実施、PR戦略を総合マネジメントできる人材育成のプログラムを整備する
【ポイント4】取引環境の改善をはじめとする事業環境整備等
ポイントの4点目は、「取引環境の改善をはじめとする事業環境整備等」です。
ここには「生み出した価値を着実に中小企業・小規模事業者に残す」ための取引環境の改善や、よろず支援拠点による経営相談体制の強化など、中小企業や小規模事業者を取り巻く事業環境の整備を図る、以下のような事業が含まれます。
中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業:60.0億円(前年度40.9億円)
「中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業」では60.0億円を要求。
前年度の40.9億円から、19.1億円増加させています。
・概算要求資料:中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業
中小企業・小規模事業者等が抱える経営課題に対応するためのワンストップ相談窓口として「よろず支援拠点」を設置するなど、次の3つの事業が含まれます。
- よろず支援拠点事業:多様な分野に精通したコーディネーターが、あらゆる経営課題の相談に無料で対応する
- 専門家派遣事業:よろず支援拠点・地域プラットフォームが専門家の派遣申請を行い、派遣された専門家が支援を実施する
- 中小・小規模事業者支援サービスの高度化実証事業:時間や場所を問わず、オンラインで経営相談が可能な仕組みを創出する
小規模事業対策推進等事業:55.9億円(前年度53.2億円)
「小規模事業対策推進等事業」では、55.9億円を要求します。
前年度の53.2億円からは2.7億円の増加です。
商工会・商工会議所が、「経営発達支援計画」に基づき実施する小規模事業者への伴走型支援を推進するといった、次の5つの事業が含まれます。
- 伴走型小規模事業者支援推進事業:「経営発達支援計画」に基づき実施する、小規模事業者の経営分析・事業計画の策定・デジタル化支援・体制の整備などに要する経費を補助する
- 地域力活用新事業創出支援事業:全国商工会連合会・日本商工会議所が、各地の商工会・商工会議所等と連携して、地域産業の活性化・観光ルート開発などの全国規模での販路開拓を支援する
- 専門家派遣等事業:新型コロナの影響や働き方改革などの課題に小規模事業者が対応できるよう、全国の商工会・商工会議所が窓口相談・巡回指導やセミナーなどに対応する専門家を派遣する
- 商工会・商工会議所等の指導事業:全国商工会連合会・日本商工会議所が商工会・商工会議所を指導するための人件費・研修開催費などを補助する
- 法定経営指導員講習事業:法定経営指導員の要件の一つである知識講習を実施する
なお「商工会・商工会議所の役割や違い」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
中小企業取引対策事業:13.5億円(前年度9.8億円)
「中小企業取引対策事業」では13.5億円を要求します。
前年度が9.8億円でしたので、3.7億円の増加です。
そして「中小企業取引対策事業」では、次の5つの重点課題への対応のために、下請法の厳正な執行や取引実態の把握、下請かけこみ寺による相談対応などを実施します。
- 価格決定方法の適正化
- コスト負担の適正化
- 支払条件の改善
- 知財・ノウハウの保護
- 働き方改革に伴うしわ寄せ防止
令和4年度(2022年度)では、取引調査員(下請Gメン)の体制を強化し、全国の下請中小企業へのヒアリングを行います。
また、消費税転嫁対策調査官(転嫁Gメン)による消費税転嫁拒否等の違反行為に対する、厳正な監査・検査も実施。
成果目標としては、受注側企業向け調査にて「不合理な原価低減要請を受けていない」 と回答する割合を60%以上となることを目指します。
まとめ:中小企業対策を把握し来年度の計画立案を
この記事では、令和4(2022)年度の経済産業省 概算要求の中小企業対策について、ポイントや事業内容を解説してきました。
記事を参考に、中小企業対策を把握して、来年度の経営計画の立案などに役立てて頂ければ幸いです。
なお、上記で紹介した令和4年度の金額はあくまでも「要求額」であり、最終的な決定稿ではないことにご注意ください。
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