厚生労働省の調査によれば、新型コロナウイルス感染症の影響で「解雇」や「雇止め」となった労働者が、見込みをふくめ何と10万人を超えています。
このような大変な状況のなか、政府はさまざまな支援策を打ち出していますが、その多くは「制度の条件などが複雑でわかりにくい」という残念な特徴が。
今回取り上げる「新型コロナ対策資本性劣後ローン」も有益な制度ですが、あまり事業者には知られていないようです。
そこでこの記事では、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の基本情報や、制度の特徴、概要、審査に必須となる事業計画書などについて、わかりやすく解説します。
「資金調達を検討している」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」とは?
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」とは、新型コロナウイルスの影響による業況悪化で資本へのダメージが心配される状況のなか、「財務の安定化に向けて資本の増強が必要な事業者」に対し、本来の収益力を回復するまで「資本性劣後ローン」で事業の成長・継続を支援する制度のことを指します。
令和2年度 第2次補正予算の「中⼩企業向け資本性資⾦供給・資本増強⽀援事業」を受けて、2020年8月3日に開始されました。
日本政策金融公庫や商工中金、沖縄公庫などで申し込み可能です。
(参考)
・日本政策金融公庫:新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン) 国民生活事業
・日本政策金融公庫:新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン) 中小企業事業
・商工中金:新型コロナウイルス感染症に関する特別相談窓口
・沖縄公庫:新型コロナウイルスに関するご案内
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の特徴
制度の詳細は後述しますが、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の特徴は次のとおりです。
- 元金は最終期限一括での返済となり、最終回までは利息のみの支払となる
- 業績に応じて金利が決定されるため、赤字のときは金利負担が小さくなり、安定的な返済計画を立てることができる
- 本制度による債務は、金融機関の資産査定上、自己資本とみなされる
- 本制度による債務は、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合、全ての債務に劣後する
- 原則として、融資後5年間は期限前返済できない
「資本性劣後ローン」とは?
あまり聞き慣れない方が多いかと思われる「資本性劣後ローン」。
この「資本性劣後ローン」とは、「融資」でありながら、金融機関からは「自己資本」と見なされるローンのことです。
一般的に中小企業が資金調達する場合、「融資」を利用する方が多いかと思います。
そして「通常の融資」を受けた場合の貸借対照表は、下図の左側のようになり、「負債割合が高まり、財務状況が悪化した」との評価に。
すると自己資本比率などの経営指標が悪化するため、追加の融資が難しくなるケースもあります。
一方で「資本性劣後ローンによる融資」を受けた場合の貸借対照表は、上図の右側のようになり、「資本が増強され、財務状況が改善された」と評価されるのです。
このときは自己資本比率は悪化しませんので、追加の融資も受けやすくなります。
「劣後ローン」とは?
ではなぜ、同じ融資でも、「負債」ではなく「資本」になるのでしょうか。
それは「劣後ローン」の性質上、「回収の可能性が極めて低い」ためです。
「劣後ローン」とは、貸し手への返済順位が低い(劣後する)無担保ローンのこと。
借り手が経営破綻・解散した場合、残った資産を債権者が分配しますが、「劣後ローン」の貸し手の優先順位は低いため、順位がまわってきたときには「すでに資産が残っていない」ことも考えられるのです。
そのため、帳簿上は債務に分類されますが、金融機関では自己資本の一部とみなされます。
貸し手から見れば、「貸し倒れリスク」が大きいものの、その分「借り手から高い金利収入を得られる」というメリットをもつ制度です。
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の制度概要
次に、新型コロナ対策資本性劣後ローンの制度概要をご紹介します。
ただし、貸し手によって制度内容に若干の違いがありますので、確実な内容を知りたい場合には、各公庫などの窓口にご相談ください。
[資本性劣後ローン制度概要①]貸付対象者
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の貸付対象者は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた、以下のいずれかに該当する事業者です。
- J-Startupに選定、または中小機構が出資する投資ファンドから出資を受けた事業者
- 再生支援協議会の関与のもとで、事業再生を行う事業者
- 事業計画を策定し、民間金融機関等による協調支援を受ける事業者
なお、上記③の「民間金融機関等による協調支援」とは、「融資後おおむね1年以内に、民間金融機関等から出資、または融資による資金調達が見込まれること」を指します。
ただし「民間金融機関等からの協調支援を希望しない」場合は、認定支援機関の支援を受けて事業計画を策定すれば対象です。
認定経営革新等支援機関(認定支援機関)とは?
「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」とは、「専門的知識と一定の実務経験」を持ち、国によって審査・認定された法人または個人を指します。
最寄りの「認定支援機関」は、こちらのシステムで検索可能です。
なお、「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
事業再構築補助金でも必須の「認定支援機関(認定経営革新等支援機関)」とは?利用メリットや検索システムも解説!
J-Startupとは?
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の貸付対象者となっている「J-Startup」とは、経済産業省が推進する「スタートアップ企業の育成支援プログラム」で、2018年6月にスタートしました。
トップベンチャーキャピタリスト、アクセラレーター、大企業のイノベーション担当などが、日本のスタートアップ企業約10,000社のなかから一押しの企業を推薦。
厳正な審査で選ばれた企業を「J-Startup企業」として選定し、海外展開を民間支援機関・政府が支援します。
[資本性劣後ローン制度概要②]資金の使いみち
資金の使いみちとしては、「事業を行うために必要な設備資金および運転資金」とされます。
[資本性劣後ローン制度概要③]融資限度額
融資限度額は以下のとおりです。
- 【中小事業・危機対応】1社あたり7.2億円(10億円※)(別枠)
- 【国民事業】1社あたり7,200万円(別枠)
※:後述のとおり、2021年7月1日からは上限が10億円に引き上げられます
なお、上記の限度額は「別枠」のため、たとえば「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を融資限度額まで利用している事業者でも、申込可能です。
[資本性劣後ローン制度概要④]返済期間と返済方法
返済期間は「5年1か月、10年、20年」のいずれか(日本政策金融公庫と沖縄公庫では、このほか7年、15年も有り)です。
返済方法は「期限一括償還」で、利息は毎月払いとなります。
また、原則として融資後5年間は繰上返済ができません。
商工中金では「真にやむを得ない事情で期限前弁済する場合には、所定の手数料がかかります」と案内しています。
[資本性劣後ローン制度概要⑤]利率
利率は、融資後3年間は0.50%、または0.95%です。
そして融資後4年目以降は、毎年直近の決算の業績に応じた利率を適用します。
当初3年間及び 4年目以降赤字の場合 |
4年目以降黒字の場合 5年1ヶ月・10年 |
4年目以降黒字の場合 20年 |
|
---|---|---|---|
中小事業・危機対応 | 0.50% | 2.60% | 2.95% |
国民事業 | 0.95% | 3.30% | 4.70% |
このように「新型コロナ対策資本性劣後ローン」には利子があり、「特別利子補給制度」の対象ではありません。
「実質無利子の融資」を希望する方は、こちらの記事でご紹介している「新型コロナウイルス感染症特別貸付」の利用をおすすめします。
新型コロナウイルス感染症特別利子補給事業をつかうと実質無利子って本当?申請方法を紹介!
[資本性劣後ローン制度概要⑥]担保や保証人
担保や保証人は不要です(無担保・無保証人)。
[資本性劣後ローン制度概要⑦]資本性の扱い
前述のとおり、金融機関の「債務者の評価」で、資産査定上「自己資本」とみなせます。
償還期限の5年前までは、残高の100%を資本とみなすことが可能。
5年未満からは1年毎に、20%ずつ資本とみなせる額が減少していきます。
[資本性劣後ローン制度概要⑧]融資条件
融資条件としては、審査時に「公庫等が適切と認める事業計画書」を提出すること、毎期の経営状況の報告等を含む特約を締結すること、などがあります。
[資本性劣後ローン制度概要⑨]償還の順位
万が一、事業者が倒産するなどして、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合は、全ての債務に劣後します。
[資本性劣後ローン制度概要⑩]申込に必要な書類
商工中金における申込に必要な書類は下記のとおりです。
- 借入申込書(資本性劣後ローン用)
- 商業登記簿謄本(写)
- 決算書(写)
- 事業の概要が分かる資料
- 直近の売上高等が把握できる資料【中堅・大企業のみ】
- 事業計画書
なお、日本公庫や沖縄公庫でも、必要書類は「通常の申し込み書類に加え、事業計画書」となっており、事業計画書の提出は必須です。
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」審査に必須の「事業計画書」とは?
前述の「申込に必要な書類」でご紹介したとおり、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の申し込みには「事業計画書」が必須です。
そして「事業計画書」とは、事業を行ううえでのアイデアや計画を、具体的に落とし込んだ書類のこと。
共通して決まった書式はありませんが、日本公庫では「新型コロナ対策資本性劣後ローン用 事業計画書」を準備しています(下画像は記入例)。
そして「新型コロナ対策資本性劣後ローン」で審査に通るには、「一定の実現性のある事業計画書の提出が必要」とされています。
○事業計画の作成
商工中金:資本性劣後ローンのご案内より
早期に事業を回復・成長軌道に乗せるなどし、収益(内部留保)を積み上げることで、返済期日までにご返済資金の確保を目指す、一定の実現性のある「事業計画」の作成が必要です。
「こういった書類を作ることが苦手で…」という方は、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)に支援を依頼して、適切な「事業計画書」を作成しましょう。
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の貸付限度額引き上げ
経済産業省は、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」について、2021年7月1日より、貸付限度額を7.2億円から10億円に引き上げることを公表しました。
新型コロナの長期化を踏まえ、「中小企業・小規模事業者への資金繰り支援を強化すること」を目的としています。
・経済産業省:新型コロナ対策資本性劣後ローンの貸付限度額引き上げについて
まとめ:「新型コロナ対策資本性劣後ローン」で苦境を乗り切りましょう
この記事では、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の基本情報や、制度の特徴、概要、審査に必須となる事業計画書などについて、わかりやすく解説しました。
ぜひ記事を参考に、適切な「事業計画書」を作成し、「新型コロナ対策資本性劣後ローン」でこの苦境を乗り切っていきましょう。
なお、今回ご紹介した「新型コロナ対策資本性劣後ローン」もふくめた、経済産業省の「新型コロナウイルス感染症対策の業種別支援策リーフレット」については、こちらの記事でご紹介しています。
【2021年最新版】新型コロナウイルス感染症対策の「業種別支援策リーフレット」と支援策を徹底紹介!
そのほか、中小企業が利用できる補助金・助成金について以下の記事でお勧めの13種類を纏めていますので、合わせてお読みください。
【最新】中小企業が利用できる補助金・助成金13選!目的・金額・条件を徹底解説
また、経営者コネクトでは、事業再構築補助金の応募を考える企業様向けに「無料相談サービス」を行っています。
ご関心のある方は、ぜひ下記サイトもご覧ください。