中小企業の設備投資を後押ししてくれる「先端設備等導入計画」。
ですが「税金が優遇されると聞いたことはあるが、くわしい制度内容まではわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、「先端設備等導入計画」の基本知識やメリット、認定要件、申請方法、変更申請まで解説します。
「固定資産税を軽減させたい」と考えている経営者の方は、ぜひご覧ください。
- 1 「先端設備等導入計画」とは?
- 2 「先端設備等導入計画」の認定を受けるメリット
- 3 「先端設備等導入計画」の認定要件
- 4 「先端設備等導入計画」の申請方法
- 4.1 [申請方法①]市区町村が「導入促進基本計画」を策定・同意を受けているか確認
- 4.2 [申請方法②]新規設備の取得前に計画の認定がされるようスケジュールを組む
- 4.3 [申請方法③]どの支援を受けたいのか・要件に合うかなど確認
- 4.4 [申請方法④]工業会証明書を依頼(税制措置を受ける場合)
- 4.5 [申請方法⑤]「導入促進基本計画」に沿った「先端設備等導入計画」を策定
- 4.6 [申請方法⑥]市区町村の様式に「先端設備等導入計画」を記載
- 4.7 [申請方法⑦]認定経営革新等支援機関に確認を依頼
- 4.8 [申請方法⑧]「先端設備等導入計画」を申請
- 4.9 [申請方法⑨]認定後、設備を取得
- 4.10 [申請方法⑩]認定計画に変更が生じた場合は「変更申請」を行う
- 5 まとめ:「先端設備等導入計画」を申請して固定資産税軽減を
「先端設備等導入計画」とは?
「先端設備等導入計画」とは、設備投資によって労働生産性を向上するために、中小企業者が策定する計画のことです。
この計画を、国から「導入促進基本計画」の同意を受けた市区町村に申請し、認定されることで、税制や金融などの支援を受けることができます。
また計画の認定には、認定経営革新等支援機関に事前確認を依頼していることが必須条件です。
「先端設備等導入計画」は、2018年6月6日に施行された「生産性向上特別措置法」にもとづき運用開始。
その後、2021年6月16日からは根拠法令が「中小企業等経営強化法」に移り、現在に至ります。
なお、同じ「中小企業等経営強化法」にもとづいた「経営力向上計画」については、こちらの記事でくわしくご紹介しています。
「経営力向上計画」とは?税制措置などのメリットや書き方、申請方法まで紹介します
「先端設備等導入計画」の認定件数は52,571件
「先端設備等導入計画」の認定件数は、1,654自治体で52,571件(2021年3月31日現在で、固定資産税をゼロとする措置を実現した自治体からの報告によるもの)。
また、認定された計画に盛り込まれた設備は合計で150,177台で、約1兆6207億円の設備投資が見込まれます。
「先端設備等導入計画」の認定を受けるメリット
次に、「先端設備等導入計画」の認定を受ける2つのメリットをご紹介します。
[メリット①]税制支援:固定資産税の特例
市区町村の認定を受けた「先端設備等導入計画」に従い取得する先端設備等について、新たに固定資産税が課される年度から3年度に限り、市町村が条例で定める税率(ゼロ~1 / 2)になります。
なお下記で紹介する市区町村は、「固定資産税ゼロの措置」を実現しました。
・中小企業庁:先端設備導入に伴う固定資産税ゼロの措置を実現した市区町村(2021年3月31日現在)
[メリット②]金融支援:中小企業信用保証法の特例
中小企業者が「先端設備等導入計画」を実行するために金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠で追加保証を受けることができます。
保証限度額は下表のとおりです。
通常枠 | 別枠 | |
---|---|---|
普通保険 | 2億円(組合4億円) | 2億円(組合4億円) |
無担保保険 | 8,000万円 | 8,000万円 |
特別小口保険 | 2,000万円 | 2,000万円 |
「先端設備等導入計画」の認定要件
次に、「先端設備等導入計画」が認定されるための要件をご紹介します。
[認定要件①]「中小企業者」であること
「先端設備等導入計画」の認定を受けられるのは「中小企業者」のみとなります。
そして「中小企業者」にあたるのは、以下の条件をどちらも満たす事業者です。
【条件1】「中小企業者」に該当する規模
「中小企業者」に該当する規模は下表のとおり。
aとbのどちらかに該当すれば、「中小企業者」となります。
(税制支援の対象要件とは異なりますので、注意してください)
業種分類 | a.資本金の額または出資の総額 | b.常時使用する従業員の数 |
---|---|---|
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または 情報処理サービス業 |
3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
【条件2】「中小企業者」に該当する法人形態
「中小企業者」に該当する法人形態は次のようになります。
- 個人事業主
- 会社
- 企業組合、協業組合、事業協同組合、事業協同小組合、協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、商工組合、商工組合連合会、商店街振興組合、商店街振興組合連合会
- 生活衛生同業組合、生活衛生同業小組合、生活衛生同業組合連合会、酒造組合、酒造組合連合会、酒造組合中央会、酒販組合、酒販組合連合会、酒販組合中央会、内航海運組合、内航海運組合連合会、技術研究組合
[認定要件②]労働生産性などの要件を満たすこと
「先端設備等導入計画」には、次の内容を記載します。
- 先端設備等導入の内容
・事業の内容
・実施時期
・労働生産性の向上に係る目標 - 先端設備等の種類と導入時期
・取得する設備の概要(機械の種類、名称、型式、設置場所など) - 先端設備等導入に必要な資金の額とその調達方法
そして計画が認定されるためには、記載する内容について、以下の条件を満たすことが必要です。
- 中小企業者が一定期間内に、労働生産性を一定程度向上させるために、先端設備等を導入する計画を策定し、その内容が新規導入する設備が所在する市区町村の「導入促進基本計画」に合致する
各項目の詳細は以下で解説します。
(1)「一定期間内」とは?
「一定期間内」とは、3年間、4年間または5年間で、市区町村が作成する「導入促進基本計画」で決めた期間となります。
(2)「労働生産性」とは?
「労働生産性」とは、次の算式で算定する値です。
(3)「一定程度向上」とは?
「一定程度向上」とは、基準年度(直近の事業年度末)比で、労働生産性を年平均3%以上向上することを指します。
(4)「先端設備等」とは?
「先端設備等」とは、労働生産性の向上に必要な、生産・販売活動に使われる下記の設備を指します。
(ただし、市区町村の「導入促進基本計画」によって異なる場合があります)
- 機械装置
- 測定工具・検査工具
- 器具備品
- 建物附属設備
- ソフトウェア
- 事業用家屋
- 構築物
「先端設備等導入計画」の申請方法
ここでは、「先端設備等導入計画」の申請方法をご紹介します。
[申請方法①]市区町村が「導入促進基本計画」を策定・同意を受けているか確認
まずは、新規導入する設備の所在する市区町村が「導入促進基本計画」を策定し、国の同意を得ているか確認します。
以下に、各地域の経済産業局ウェブサイトの情報をまとめましたので、参考にご覧ください。
・北海道:北海道内の導入促進基本計画(2020年9月15日現在)
・東北:東北管内市町村導入促進基本計画同意状況(2020年8月27日現在)
・関東:導入促進基本計画を策定した自治体一覧(2021年1月25日現在)
・中部:北陸地域における導入促進基本計画の一覧(2021年6月15日現在)
・近畿:なし
・中国:なし
・四国:なし
・九州:九州管内の導入促進基本計画の同意状況について(2020年11月30日現在)
・沖縄:なし
経済産業局ウェブサイトの情報がない地域の場合は、各市区町村ウェブサイトで「導入促進基本計画」があるかご確認ください。
[申請方法②]新規設備の取得前に計画の認定がされるようスケジュールを組む
新規設備は「先端設備等導入計画」の認定後に取得する必要があるため、そのようにスケジュールを組んでください。
すでに取得した設備を対象とした計画では、認定されません。
特例もありませんので、注意してください。
[申請方法③]どの支援を受けたいのか・要件に合うかなど確認
次に、「1.税制支援」と「2.金融支援」のどちらの支援措置を受けたいのかを検討します。
そして措置を選んだところで、「要件に合うか」と「事前に行うべきこと」を確認します。
1.税制措置を受けたい場合
税制措置を受けたい場合は、適用対象者の要件となる以下の①~③に当てはまるかを確認します。
これは前述の「計画の認定を受けるための要件」とはまた別の要件です。
対象要件①:中小企業者等
「中小企業者等」とは、次のいずれかを満たす事業者です。
- 資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人
- 資本金もしくは出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
対象要件②:適用期間
適用される期間は、2022年度末までです。
対象要件③:設備
下表の対象設備のうち、次の2つの要件を満たす設備であることが必要です。
- 要件1:一定期間内に販売されたモデル(中古資産は対象外)
- 要件2:生産性の向上に資するものの指標(⽣産効率、エネルギー効率、精度など)が、旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備
〈対象設備〉
設備の種類 | 最低価格 | 販売開始時期 |
---|---|---|
機械装置 | 160万円以上 | 10年以内 |
工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具備品 | 30万円以上 | 6年以内 |
建物附属設備 | 60万円以上 | 14年以内 |
構築物 | 120万円以上 | 14年以内 |
2.金融支援を受けたい場合
金融支援を受けたい場合には、計画申請の前に、関係機関に相談することが必要です。
関係機関は下表の通り。
期間の名称/問い合わせ窓⼝ | 電話番号 |
---|---|
各都道府県の信⽤保証協会 または(⼀社)全国信⽤保証協会連合会 |
各都道府県の信⽤保証協会 または、03-6823-1200 |
[申請方法④]工業会証明書を依頼(税制措置を受ける場合)
税制措置を受ける場合は、設備を生産する機器メーカーに「工業会証明書」の発行を依頼します。
設備メーカーは、工業会などに証明書の発行を依頼し、発行されたら申請者に転送。
なお、証明書の発行には数日~2ヶ月ほどかかるため、できるだけ早めに依頼しておきましょう。
「工業会証明書」の申請書やくわしい手順などは、こちらのサイトをご覧ください。
[申請方法⑤]「導入促進基本計画」に沿った「先端設備等導入計画」を策定
次に、各市区町村の「導入促進基本計画」に沿った「先端設備等導入計画」を策定します。
ここで、対象となるのはあくまでも「新たに導入する設備が所在する市区町村」であり、本社などの所在地ではありませんので注意してください。
たとえば、神奈川県横浜市の「導入促進基本計画」はこちらです。
[申請方法⑥]市区町村の様式に「先端設備等導入計画」を記載
「先端設備等導入計画」の概要が策定できたら、市区町村の様式に記載していきます。
この様式は市区町村によって異なりますので、提出先のウェブサイトでご確認ください。
なお、2021年6月16日に根拠法令が「生産性向上特別措置法」から「中小企業等経営強化法」となったことで、申請書の書式などが変更となっています。
市区町村ウェブサイトでは、最新書式をアップしているはずですが、念のためサイトの更新日が「2021年6月16日」以降になっていることを確認して、古い書式を使用しないよう注意してください。
参考として、横浜市での申請書の記載例はこちらでご覧ください。
・横浜市:先端設備等導入計画に係る認定申請書 記載例(PDF形式)
[申請方法⑦]認定経営革新等支援機関に確認を依頼
「先端設備等導入計画」の申請書が完成後、認定経営革新等支援機関に確認を依頼します。
これは計画申請の必須事項です。
認定経営革新等支援機関では「設備の導入によって労働生産性が年平均3%以上向上するか」を確認し、問題がなければ「確認書」を発行します。
なお、認定支援機関の探し方や利用メリットは、こちらの記事でご紹介しています。
事業再構築補助金でも必須の「認定支援機関(認定経営革新等支援機関)」とは?利用メリットや検索システムも解説!
[申請方法⑧]「先端設備等導入計画」を申請
必要書類が揃ったところで、「先端設備等導入計画」を申請します。
申請方法や宛先なども各市区町村によって異なりますので、ウェブサイトでご確認ください。
たとえば横浜市では、以下の書類を「簡易書留」で郵送し、さらに「先端設備等導入計画」のワード形式データをメールでも送るように指示しています。
(「固定資産税の特例措置」を受ける場合などは、別途書類が必要です)
[申請方法⑨]認定後、設備を取得
市区町村から認定されると、「認定書」が発行されます。
たとえば横浜市では、「申請書類等に不備がない場合、おおむね2週間程度で認定書を発行」とアナウンスしています。
「認定書」の発行後に、設備を取得しましょう。
また、税法上の要件を満たした設備については、税務申告時に税制上の優遇措置の適⽤を受けることができます。
その際は、納税書類に以下の書類を添付して申告してください。
- 「⼯業会証明書」の写し
- 「認定を受けた計画」の写し
- 「認定書」の写し
[申請方法⑩]認定計画に変更が生じた場合は「変更申請」を行う
認定された「先端設備等導入計画」の内容に変更が生じた場合は、市区町村に対して「変更申請」を行う必要があります。
「変更申請」の申請書類は、各市区町村ウェブサイトをご覧ください。
さらに「労働生産性に影響を及ぼすような場合」には、再度、認定経営革新等支援機関の確認も必要です。
なお、認定を受けた「先端設備等導⼊計画」の趣旨を変えない、以下のような軽微な変更については、「変更申請」は不要とされています。
- 設備の取得⾦額・資⾦調達額の若⼲の変更
- 法⼈の代表者の交代 など
まとめ:「先端設備等導入計画」を申請して固定資産税軽減を
この記事では、「先端設備等導入計画」の基本知識やメリット、認定要件、申請方法、変更申請まで解説しました。
ぜひ記事を参考に、「先端設備等導入計画」を申請して、固定資産税の軽減や信用保証の優遇を受けましょう。
これら以外にも、中小企業が活用できるものとして補助金があります。
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