中小企業が銀行から融資を受ける場合には、不動産や定期預金などの担保を差し入れることがほとんどです。
しかし、創業間もない企業で資産が少なかったり、他の融資で既に担保の枠がなかったりということもありますよね。
このようなケースでは、「ABL(Asset Backd Loan 不動産担保ローン)」という融資手段を検討してみてはいかがでしょうか?
ABLの概要や対象となるもの、メリット・デメリットを紹介します。
ABL(Asset Backd Loan 不動産担保ローン)とは?
ABLとは、売掛債権(売掛金や在庫など)を担保にして実行する融資制度です。
車両や機械、設備などの事業収益資産を活用する場合もあります。
日本で利用されるようになったのは最近ですが、アメリカでは1970〜80年代に利用が始まりました。
日本ではもともと手形取引が普及しており、手形割引や裏書譲渡で資金調達ができましたが、手形取引の減少に伴い、売掛債権を活用しての資金調達がしにくくなってしまいました。
このような経緯があり、ABLは中小企業の新しい資金調達方法として注目され始めたのです。
また、金融庁も資金調達力が低い企業に対してABLの積極的な利用を推進しています。
不動産を持たない企業でも資金調達ができるようになれば、事業拡大などに資金を使うことができるようになり、経済の活性化にも繋がるからです。
ABLは、事業価値に基づき「事業が継続すること」を前提に利用できます。
そのため、融資前に担保にする売掛金や在庫について、「どれくらいの価値があるのか」を調査・評価をする必要があります。
当然、価値が高くないものは担保に認められません。
通常の融資に比べると事前準備に時間がかかる場合があるので、ABLを利用して資金調達を行いたい場合には早めに相談するべきでしょう。
審査が通れば、実際に担保となる売掛金は債権譲渡登記、在庫は動産譲渡登記を行います。
これは銀行が第三者に対して売掛金や在庫の所有者であることを主張するために必要な手続きです。
ただし、不動産登記の抵当権のように順位をつけることはできません。
在庫を担保にする場合、通常の商取引の範囲で原材料や機械などで生産活動が可能できますし、商品を取引先に販売することも可能です。
この点は、所有権が銀行に移ったら処分や変更がしにくくなる不動産登記とは異なります。
また、通常ABLでは「コベナンツ」という銀行との約束事項を作り、それを守る必要があります
融資実行後は担保となる売掛金や在庫の状態を定期的に報告する必要もあり、これを「モニタリング」といいます。
売掛金を担保としてABLを利用する場合には、売掛金の入金を融資を受ける銀行にまとめることも必要です。
参考:金融庁
ABLの対象になるもの
ABLの担保として対象になるのは以下の通りです。
- 製品や商品の在庫
- 仕掛品
- 原材料
- 車両・機械など
- 受取手形
- 売掛金
このように、通常の融資に比べると担保にできる対象が幅広いのがABLの特徴といえるでしょう。
ABLの融資額の決め方
ABLの融資額を設定する場合は、毎月発生する売掛債権の概算をして、そこに掛目をかけて上限額を決めます。
掛目の上限は金融機関により異なりますが、債務者の信用度に合わせて売掛金の場合は70%~90%に設定されます。
たとえば、毎月1,000万円程度の売掛金が発生がある場合、掛目80%なら800万円が融資の上限となるイメージです。
ギリギリで設定してしまうと、売掛金の額が融資額を下回ったら銀行としてはリスクを負うことになるので保守的に設定します。
ABLを活用しやすい企業
ABLを活用しやすいのは、売掛金や在庫が多い企業です。
特に、在庫期間が長いと仕入れから資金回収までの時間が長くなる業種の場合、運転資金を常に確保しておく必要があります。
たとえば、アパレルなど在庫を多く保つ必要のある業種などに向いています。
また、このように在庫が多い企業は、普段から在庫の品質管理は普段からしているため、銀行への報告もそれほど手間にならないでしょう。
このように
- 売掛金や在庫が多い
- 在庫期間が長い
- 報告体制が既にできている
という場合にABLは使いやすいといえます。
また、売掛金を担保にする場合は、売掛金が分散できているほど債務不履行となった場合のダメージが少ないので評価されます。
そのため、さまざまな売掛先があり、それを担保として提供できる場合は評価されやすいです。
さらに、ABLは売掛先の信用力も評価に影響します。
そのため、売掛先が信用力が高い大手企業という場合は、評価が高くなる可能性が高いのです。
融資の審査自体は債務者本人の信用力の審査ですが、売掛先からきちんと資金を回収できるかも重要だからです。
ABLのメリット・デメリット
ABLを活用するメリット・デメリットを両方の視点から紹介します。
メリット①:通常の融資では利用できない売掛金や在庫が担保となる
通常の銀行融資では、換金性が高く価値が高いと評価される固定資産が担保の対象になります。
そのため、資産を多く持たない企業にとっては融資の枠を増やしにくいです。
しかし、ABLでは売掛債権が多い企業が売掛金や在庫を担保にすることで効率的に資金調達ができる点は最大のメリットといえるでしょう。
メリット②:銀行との信頼関係ができる
ABLを利用すると、契約前に在庫などの評価をするために銀行員が会社や・工場・倉庫などに足を運ぶことになるので、銀行とのコミュニケーションが増えます。
銀行としても普段の融資では確認しない細かいところまでチェックできるので、商品の素晴らしさや可能性について実感してもらうチャンスでもあります。
企業の魅力をアピールでき、信頼関係ができると、ABL以外の融資でも支援してもらえる可能性も出てくるかもしれません。
メリット③:売掛債権の管理を見直すきっかけになる
ABLを利用する場合、売掛債権の管理・報告(モニタリング)をする必要があるので、在庫管理の方法を見直すきっかけにもなります。不良在庫を抱えないように気を配ることで、無駄な損失を減らせるようになるかもしれません。
デメリット①:融資実行までに時間がかかる
ABLのデメリットは、在庫などの評価に時間がかかるので、融資実行までに時間がかかる場合があります。
そのため、緊急で資金調達が必要な場合には間に合わないというリスクがあります。
デメリット②:コベナンツ抵触のリスク
ABLを利用する場合、コベナンツという銀行と企業との約束が結ばれますが、このコベナンツに抵触した場合にペナルティがあることがほとんどです。
具体的には、金利の引き上げ、手数料の支払い、抵触時点で融資を全額返済などです。
たとえば、毎月の売掛金の決済額が約1,000万円見込まれている状態で、800万円の融資を受けることにします。
このような場合には、売掛金の入金額が800万円を下回る場合にはペナルティが科せられるというコベナンツを銀行と企業間で結ぶがほとんどです。
売掛金が800万円以上を期待されているのに、600万円しか入金がなければ銀行としては200万円分が裸与信となるので、リスクが大きくなります。
そのため、コベナンツに抵触しない額で融資を借りる必要がありますし、契約時にはペナルティについてきちんと確認しておく必要があるといえます。
また、コベナンツに抵触しそうになったときには、事前に銀行に相談して対策を考えるのも大切です。
もし、事前に報告がないと「管理がいい加減な会社」と悪い印象を与えてしまう危険性があります。
デメリット③:売掛金や在庫の流れをすべて銀行に把握される
ABLは、売掛金や在庫状況について定期的にモニタリングが行われるので、通常の融資よりはるかに銀行との密な情報伝達が必要になります。
また、売掛金や在庫の流れも常にチェックされて、不審な動きと疑われれば口出しされる可能性もあるでしょう。
そのため、経営の細かいところまで監視されたくない場合にはデメリットと感じるかもしれません。
ABLの融資までの流れ
ABL融資の流れは以下の通りです。
- 融資の相談
- 担保にする動産・債権の評価
- 融資審査
- 契約
- 実行
通常の融資との一番の違いは、担保にする予定の売掛金や在庫について独自の調査が行われることです。
担保にする動産・債権の評価は銀行が行うこともありますが、外部の評価会社へ依頼することもあります。
具体的には受発注の契約書類や過去の入出金履歴、在庫の場合は現地調査を行いチェックをします。
そのため、通常の融資よりも事前調査に時間がかかるのです。
- 売掛金・在庫の状況を報告
- コベナンツに抵触した場合は対応
融資実行後は毎月ごとなど決まった期間で売掛金や在庫の状況を報告する必要があります。
コベナンツに抵触した場合は、最初に決めたルールに基づきペナルティが科せられるので、それに対応しなくてはいけません。
まとめ
ABLは、売掛債権がある企業が不動産や定期預金などを担保として差し入れる必要なく融資を受けることができる制度です。
中小企業の資金繰り対策として金融庁も活用を推奨しています。
とくに、多くの在庫を持ち、在庫期間が長い事業形態の企業に向いているといえます。
ABLは、担保となる売掛債権の調査・評価をするために通常の融資と比べると時間がかかります。
融資実行前も融資実行後も定期的に売掛債権の状況を報告するなど、銀行との関係は密になることに期待できますが、銀行から干渉が入る可能性があると理解する必要があります。
事前に取り決めたコベナンツに抵触するとペナルティが科せられるので、コベナンツに絶対に抵触しないような契約(融資額を抑えるなど)を結ぶべきですし、コベナンツに抵触しそうになったら早めに銀行へ相談しましょう。
このようにABLにはメリット・デメリットがありますので、天秤にかけて利用を検討してみてくださいね。
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