中小企業が与信管理で気を付けるべきポイントは?連鎖倒産を防ぐためにできること

与信とは「信用を供与すること」です。

具体的には、銀行が企業に対して返済してくれることを前提に融資を行ったり、商品を販売する場合に将来支払ってくれることを前提に掛け商売にしたりなどがあります。

中小企業では、1か月分の取引をまとめて翌月以降の決まった日に支払ってもらう決済方法にしているところがほとんどではないでしょうか。

しかし、売掛先が約束通りに支払ってくれなければ、その売掛金見込みで支払をしようと思っていた支払ができなくなります。

そのため、中小企業にとって与信管理は非常に大切なのです。

この記事では、中小企業が与信管理を行う必要性やポイントについて紹介します。

なぜ与信管理をする必要があるのか?

与信管理の目的は「不良債権の発生を防ぐこと」です。

特に中小企業の場合は、現預金が普段から潤沢に用意されていることは少ないと思います。

そのため、ほとんどの場合は売掛先からの売掛金を見込みで買掛金・人件費・その他経費の支払を行っているのではないでしょうか。

このような場合に、一社でも予定通りに入金がなければ、支払ができなくなってしまいます。

ただ、売掛先が忘れていただけですぐに回収できるなら良いですが、経営不振で売掛金の決済が不能になってしまえば、なかなか回収ができなくなりますし、連鎖倒産する可能性もあるのです。

そのため、普段から売掛先に対する与信管理は非常に大切なのです。

特に2018年までは倒産件数が減少傾向でしたが、2019年は微増、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、倒産件数が増える可能性が高いです。

「もしかしたら自分の取引先が倒産するかもしれない」という気持ちで保守的に考える必要があるでしょう。

参考:中小企業庁

与信管理のはじめかた

与信管理は、取引開始時と取引が実際に始まってから定期的に行う必要があります。

取引開始時はなるべくたくさん売掛先の情報を集める

取引開始時には、なるべくたくさんの取引先に対する情報を集め、「信用できる相手なのか」をチェックします。

とはいっても、中小企業の場合は決算資料の開示義務がないので、業績についての正しい情報を入手するのは非常に難しいです。
そのため、ヒアリングベースで業績について、販売先についてなどをなるべく詳しく聞きましょう

また、定性的な判断になりますが経営者の人柄、従業員の仕事に対する取り組み方、オフィスの清潔さなども判断材料になります。

そのため、それなりの額の取引を始めるのであれば実際に本社に足を運んで、きちんと事業が行われているかなど売掛先企業の「実態」を確認すべきといえます。

ホームページから情報収集もできます。

たとえば、取引先銀行が記載されていれば、その銀行から融資を受けている可能性があります。
銀行は審査が厳しいので、取引が確認できたら一つの安心材料です。

また、ホームページの内容に嘘はないかという視点でみることも大切です。

たとえば、株式会社は資本金1円からでも設立できますが、資本金の額は会社の信用力にもなり得るので、大きい方が評価されます。

この資本金の額は登記簿謄本を見ればわかりますが、企業を大きく見せるためにホームページ上には実際に大きな額を記載していることもあるかもしれません。

このようなケースは稀でしょうが、嘘を平然と書ける企業に与信を与えるべきではないといえます。

「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」などの信用調査を活用するのも一つです。
データを取得するには費用がかかりますが、自分だけで調べられないような情報を入手できるかもしれません。
取引先がこのような調査企業からの調査に対応している場合には、売上なども見ることができます。
対応していなかったとしても、このような信用調査をメイン業務としている企業による客観的な評価は参考になると思います。

また、口コミを探してみるのも良いかもしれません。
口コミは表面的な情報だけではなく、その企業の実態が浮かび上がる可能性もあります。
たとえばネット検索、twitter検索などでも良いですし、既に取引をしている企業に聞いても良いかもしれません。
同業に知り合いがいれば、経営者同士のつながりから評判を聞くということもできるでしょう。

このように取引開始時にはさまざまな手段を使い情報を集め、総合的に取引の有無や与信額を決めるのが大切です。

取引が始まってからは売掛先の変化に着目

取引開始時には問題なくても、時が流れるにつれて売掛先の状況は変わります。

そのため、毎年決まった月などに取引継続の有無を決めたり、売掛債権額の限度を決めたりすると良いでしょう。

取引が始まってからの与信管理では、経営状況に変わりがないかなどヒアリングをしたり、帝国データバンクの評価を参考にしたりしましょう。

もし、遠方などの理由があっても取引先に変化がないかを確認するために、1年に1回以上は実際に企業に足を運ぶべきといえます。

定期的なコミュニケーションがないと、会社の経営状況が悪化して売掛金が入金されないというだけではなく、前触れもなく突然取引中断というリスクもありえるでしょう。

このような事態を避けるためにもきちんと顔を合わせた面談が大切なのです。

他にも、不動産登記簿謄本などで融資の状況を確認するという手もあります。
不動産登記簿謄本は法務局へ依頼すれば誰でも閲覧が可能な資料です。
社長の自宅や企業の本社などの登記簿を入手して、抵当権が新しく設定されていないかなど確認できます。

抵当権設定の日付が新しい場合は、何らかの事情で融資が必要になったということも推測できます。
前向きな投資のための融資の可能性もありますが、資金繰りに困窮し融資を受けざるを得ない状況になった可能性もあります。

このようにさまざまな状況から売掛先の変化を感じ取る必要があります。

与信管理の運用のポイント

最後に、与信管理のポイントを紹介します。

信用を与えるメリットがあるのか

取引先に信用を与えるうえで、一番大切な基準は「採算をとれるのか」ということでしょう。

与信は常にリスクが絡むので、採算が取れないのにも関わらずあえて信用を与える意味はあまりありません。

たとえば、売上高は多いけど利益率が低ければ、売掛金が回収できなかった場合の損失が大きくなるだけです。

利益がそれまで取れていればまだ良いですが、薄利の場合はデメリットの方が勝ります

特に、中小企業が売掛先の場合は決算を公表しているような上場企業に比べると与信管理もしにくいので、せめて採算だけはきちんととれるようにしておきたいものです。

売掛金の回収期日の管理

売掛金を回収するまでの時間が長いほどリスクは大きくなります。

そのため、取引して間もない頃はなるべく回収までの時間を短く設定すると良いでしょう。

また、売掛先から支払期日の延長を求められることもあると思います。

このような場合は、すぐに応じるのではなく、「なぜ支払期日を延ばす必要があるのか」「経営状況はどうなっているのか」などなるべく詳しく確認するべきといえます。

経営状況が悪い場合、そのままその売掛債権を回収できなくなる可能性もあるからです。

売掛金見込みで支払を予定していて、その支払いができなくなれば連鎖倒産になってしまいます。

そのため、このような相談があった場合には念のため事前に資金繰り対策をしておいた方が無難です。

具体的には融資を依頼したり、定期預金を解約しておいたりが考えられます。

売掛先を分散してリスクヘッジ

売掛先を分散させるのも大切です。

一部の取引先に集中してしまえば、その企業が倒産した場合、連鎖倒産になる可能性があるからです。

リスクヘッジの意味でも売掛先は一極集中はさせずに、分散させるべきです。

企業単位で売掛債権管理

売掛債権は企業ごとに分けて管理するべきです。

あらかじめ各売掛先への与信枠を決めておき、それ以上取引を増やさないようにするなど管理します。

企業別に売掛債権管理をしておけば、万が一入金がなかった場合にもすぐに確認できます。

ファクタリングを利用

「採算の取れる取引内容だけど信用に問題がある」という場合にはファクタリングを利用するのも一つです。

ファクタリングを利用して売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことで、売掛債権の期日を待たずに現金を回収できます。

ただし、ファクタリングには手数料がかかります

貸金業登録の必要がないので、企業によって手数料はかなり異なりますし、悪徳業者も混ざっています。

もしファクタリングを利用する場合は、業界で名の通った所を選んだり、何社か見積もりを出してもらったりするのが良いでしょう。

まとめ

現預金が潤沢にない中小企業にとって与信管理は必要不可欠です。

売掛債権の回収見込みで支払の予定を立てていた場合、その回収ができなくなれば連鎖倒産を引き起こす可能性があるからです。

そうすれば、経営者本人も大きな負担とになりますが、従業員は職を失い、他の取引先にも不利益を与えるなど非常に辛い状況になってしまいます。

このような事態を避けるためにも、売掛先に対する与信管理はしっかり行うべきといえます。

中小企業の場合、決算開示の義務が無いのでなかなか実態を把握するのは難しいですが、以下のような方法がオススメです。

  • 経営状況や取引状況をヒアリング
  • ホームページで情報収集
  • 帝国データバンクなどの信用情報を確認
  • 登記簿謄本を調べる
  • 口コミを集める

取引開始時や取引開始後も定期的に与信管理をして、売掛先の変調にいち早く気づくことが大切です。

また、「そもそも与信を与える必要があるのか」という点は常に考えましょう。

与信管理は手間もかかりますが、債権を回収できなくなると大きな損失を被るので、売掛金の回収日の管理、売掛先の分散、売掛債権別の管理もきちんとしておきます。

融資・資金繰りでお悩みならご相談ください!

経営者コネクト』にご相談いただければ、融資や資金繰りついての知識や経験が豊富な中小企業診断士、税理士、元外資系コンサルタントといった専門家が親身にお話を伺います。

融資の準備に必要な、将来的な事業計画や経営戦略の策定、マーケット調査、新規事業の検討、融資以外の補助金・助成金のお手伝いもさせていただくことが可能です。

融資を受けるまでには、準備や審査の時間がかかります。申請から入金までに1か月以上かかることもありますので、早めのアクションが大切です。

お問い合わせフォーム』よりご連絡いただければ、無料でご相談をお受けいたします。